放映当初は視聴率が振るわなかったのにもかかわらず、何年たっても人気のドラマ。そんな「すいか」の魅力の一つでもある、登場人物たちの心に残る名ゼリフを集めてみました。映画「かもめ食堂」「トイレット」「南極料理人」などがお好きな方にぜひおススメなドラマです。

ドラマの背景と登場人物

物語は、人生に行き詰まっている30代半ばの信用金庫職員が、同僚の3億円横領事件をきっかけに家を出て、賄い付き下宿のハピネス三茶で暮らすことからはじまります。

信用金庫職員の基子には小林聡美、売れない漫画家の絆にはともさかりえ、大学教授の崎谷には浅丘ルリ子、大学生の大家ゆかには市川実日子などが出演。基子の同僚で横領事件をおこす馬場ちゃん役を小泉今日子が演じ、犯人を追う刑事に片桐はいりが扮しています。

自分にも他人にも厳しい女教授

「私は泣くことを許さないわけじゃないんです。考えることをやめて、適当にごまかすことが許せないんです」

「みんな何かしら埋めて生きてるのよ。安心して忘れなさい。私が覚えておいてあげるから」

「うさぎだろうが人間だろうが死ぬときは死ぬんです。それをお金にかえたからっていって、悲しみが減るものではないでしょう。死んだ時はあきらめるしかないんです。あきらめきれなくても、あきらめるしかないでしょう」

「生きてる人間はとどまってはいられないんです。死んだ人間みたいにずっととどまっていられないの。人は変わるものなのよ。私あなたが死んだとき、この世は終わったと思ったわ。でも終わらなかったの。私は30年間楽しかった。話したり、食べたり飲んだり、読んだり笑ったり、嘘ついたり泣いたり、励ましたり励まされたり、生きてることが嬉しかったの。ごめんなさい。私変わってしまったの」

「生きていくのが怖いのは誰だっておんなじです。私だって怖いわ、みんなそうなのよ」

「今日あなたがしたこと私は一生忘れないでしょうね。でもこの仕事を選んだのは自分だから何が起ころうと逃げずにどんなことも引き受けて、生きていくつもりよ。自分の人生は誰も肩代わりしてくれないものだから、自分で責任を負うしかないのよ。でも本当のこと言うと、あなたがもし死んでたら、そのことを背負いきれなくて、大学を辞めて、私何をしたらいいかわからなくなってたかもしれない。生きていてくれてありがとう。私たちはまだまだラッキーよ」

「20年先でも今でもおんなじなんじゃないかしら。自分で責任を取るような生き方をしないと納得のいく人生なんて送れないと思うのよ」

「人はどこでも学べるということを実感したいの。遅すぎることなんてないのよ。私たちはなんでもできるんだから」

教授からは、数々の人生の格言ともいえる言葉が炸裂します。厳しいが、愛にあふれた人物で、ハピネス三茶の住人達の導き手でもあるようです。「何がおころうと、全てを引き受ける根性さえあれば、生きることは怖いことではない。」という自論を実践して生きる人です。

変わりたい願望のある冴えないOL

「今、気がついたのよ。数字に、ずっとこだわってきたのは私だって。もっと、もっと百円玉貯めたいって、欲しい物があるわけでもないのに、数だけ、もっと欲しいって思ってきたの、私だわ。私、中身じゃなかったんだ。欲しいの、数字だけだったんだ」

「でも私も逃げたい。親から、仕事から、こんな自分から。私も逃げたい」

「お金出せばそれですむとか、時間ないから次に行こうとか、体裁のいいことだけ言っておこうとか、そうやって馬場ちゃんのこともなかったことにして、エロ漫画家をクリエイティブな職業だなんて言い換えたりして、親いるのにいないように暮らしたりして、あるのにないことにするってのは、間違ってるって思うんです。そんなに簡単に切り捨てて生きてって、それでいいのかなって思うんです。いないことにされるのは、つらすぎます」

「飼い犬になるより、苦労しても自由がよかったのかな」

「馬場ちゃん、似たような一日だけど、全然違う一日だよ」

基子は、子離れのできない母親に敷かれた、レールの上の人生から34歳にして独立。ハピネス三茶の暮らしの中で、今の自分と向き合い、思い悩みながら少しづつ変化していきます。

やたらとフレンドリーな女刑事

「人は正体が初めからわかっているもには興味をもたない。こう、ああなんだタオルかって思うだけ。でもね、わかりにくいものには目をこらすでしょ」

「そりゃ、誰だってそうです。でもね。ここに居ながら、にげる方法が、きっとある、それを自分で考えなきゃダメです」

「早川さん、人に嫌われてもいいんですよ。矛盾してる自分を許してあげなきゃだめです。いいじゃないですかだらしなくたって。きっとあなたにも何かがあるはずですよ」

女刑事役の片桐はいりが、一見恐ろしげですが、友達みたいな気さくさもあり、またそこがさらに怪しげだったりして、出番は少ないのに印象的です。バーのママ役に、もたいまさこも出演しているのですが、セリフがほとんどない不思議なキャラです。かもめ食堂のメンバーがここにそろっています。

主役と好対照なエロ漫画家

「あたしより偉いよ。だって、自分が最低だって知ってるんだもん。それってめちゃめちゃラッキーだよ。また同じこと繰り返すのかもしれないけどさ、でも、自分が最低だって言って泣くのは、いいことだよ」

「人もさ、こんなふうに中身全部出して、そんでまた新しいの入れられたらいいのにな。忘れられなくて、いつまでも引きずってて、前に進めないの。ばかすぎるよね、ま、頭ではわかってるんだけど、なかなかねぇ」

野口(絆へのファンレター)「今僕がやりたいのは、世の中のことをちゃんと知るということです。名前だけじゃなくて、値段だけじゃなくて、その中身をちゃんと知るということ。ひょっとしたらその中には思いも知らない喜びがあるかもしれないということ」

絆は、過去の傷がまだ癒えていないエロ漫画家です。自分のやりたいことを仕事にして、自由人のようにみえますが、こだわりが強く、一つ一つ納得できないと前に進めないタイプ。不器用で自分に正直人。

少し不思議ちゃんでボーイッシュな大家

「ただ才能なんかなくっても、この世にはそのままきれいな宝石箱にしまっておきたくなるような、かけがえのない瞬間があるんだと思います。それはどうしようもなく寂しい時、寂しいよねってうなずいてくれる誰かの声。暑かった一日が終わって、優しい風に吹かれる心地よさ。そんな些細なことだと思うんです」

「でも、終わるのも楽しいかも、と私は思います。やっとアイスにハズレが出た時の、あのホッとした感じ。やっと終わったぁという解放感。私は、そんなふうに一生を終えたいです」

ハピネス三茶の大家のゆか。明るく能天気っぽい言動からは想像できないが、幼い頃に母親との離別、父親からハピネス三茶を受け継ぎ、学生でありながら、大家をやっている苦労人的な部分は、ストーリー中ではあまり見えません。一話ごとの終わりに語られる、父への手紙の言葉が良いので載せました。

元OLの3億円逃亡犯

「早川の下宿行ったときさ。梅干しの種見て泣けた。朝ごはん食べた後の食器にさ、梅干しの種がこうそれぞれのこってて、なんかそれが愛らしいつうかつつましいっつうか、なんか生活をするってこういうことなんだなって思ったら、泣けてきた」

「全然おおげさじゃないよ。掃除機の音もすごい久しぶりだった。お茶碗とお皿が触れ合う音とか、庭に水まいたり、台所に行って何かこしらえたり、それをみんなで食べたりさ、なんかそういうのみんな、私にはないんだよね。そういう大事なもの、たったの3億円で手放しちゃったんだよね」

毎回、どこかで馬場ちゃんはちょろっと登場します。3億円の横領により、彼女の人生は一変、犯罪者として逃げ回ることになります。信用金庫に留まって、今の自分を何とかしようと苦闘している基子と、その世界から飛び出した馬場ちゃん。基子の口からは「馬場ちゃんみたいになりたい。」という言葉が思わず出てしまうこともありました。

ただのまったり系ドラマではない。

まったり系と思って見てたら、「すいか」は侮れません。登場人物たちの言葉が胸に刺さって痛いこともあります。ごまかさず、正面から向き合えと言われているかのようです。しかしどんなことからも逃げずに向き合っていたら身が持ちません。だから時には逃げたっていいんです。

一つの答えとして、女刑事の「ここに居ながら、にげる方法が、きっとある、それを自分で考えなきゃダメです。」という言葉。そして教授の「自分で責任を取るような生き方をしないと納得のいく人生なんて送れないと思うのよ。」という言葉です。セリフには生きるヒントが込められており、木皿泉からのメッセージだと受け取れます。

「すいか」は全10話のひと夏のストーリーです。世田谷区三軒茶屋が舞台ですが、都会のどこにこんな風景があるのだろうかと、ちょっと異世界感があります。オープニングのすいかが、ゴロゴロ生き物のように街を転がっていくシュールなシーン。丸ごと一つのすいかは、家族を象徴しているようにも見えなくもなく、ドラマ自体はまったりしながらも、生きることは悲しくて美しい、そんなことを感じさせる、実は濃ゆいドラマなのです。

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