【岡崎】夕方喫茶 / 非思量なゆっくり時間を体感できる静寂喫茶。

愛知県岡崎市、くらがり渓谷の近く、岡崎かき氷街道と呼ばれる道沿い、すくすくと立ち並ぶ木に隠れている小屋にポツンと小さな灯りがともる午後1時。ここは夕方に来るとより魅力が深まるという。



夕方じゃないのに夕方の気配がする不思議。

表から続く小道をたどった先、小屋の入り口には、消え入りそうな儚い文字。

まるで昼間見る浅い夢の中、山奥の古びた民家、迷い家に行きあたったかのよう。

この小屋はついそんな非現実な空想をしてしまう何かだ。

黄昏時にはまだ早いのに、どことなくマジックアワーとか逢魔が時などの時間を感じさせる不思議。

中に入ってみると、影が心地よく潜んでる。

今の日本の家には、くらがりがないんだと改めて思う。白熱灯や蛍光灯、LEDで部屋の隅々まで照らし出された空間には、空想する余地というものはない。

子供のころはよく、田舎のおばあちゃんの家の仏間の向こう、隅っこの影の中にひっそりといる何かを見なかっただろうか。

そんなことを思い出しながら、壁につけられた机の前に座る。古い文机。

ゆったりとしたソファに深く腰かけると、目にするのは昔からある日本家屋の塗り壁に、裸電球がひとつ。

視線の行き場が壁という状況は、いやでも静かな内省への時間になっていく。

横で時々ひらりと揺れる暖簾に目を滑らせる。開け放たれた掃き出し窓からはゆったりと風が入ってくる。

緑が眩しい。

沢からの涼しい風が部屋を抜けていく。

風の中に、雨の降った後の濃ゆい森の匂いを感じる。

外はどうなってるのだろう?気になって出てみた。

車で通る道路側からだと、この光景はおよそ想像できない。

草はきれいに刈られていて、陽当たりも良くすっきりしている。よく見ると小さな野草があちこちに花を咲かせていた。うっかり踏んでしまわないように気を付けながらしばらく散歩するのもすこし楽しい。

奥にはお座敷がある。茶会を行えるようなしつらいになっていて、8畳ほどの広さ。

夕雨という珈琲は、本当に雨の匂いがした。

おすすめの夕雨という珈琲と、微睡というアイスコーヒーを頼んでみた。

夕雨(ゆうさめ)深くて、優しい甘い余韻

一口飲むと、はじめ深い味わい、確かにそう。そしてびっくりなのが、続く余韻がまさに夕時に降った雨の、ほのかな香りを感じさせること。これは魔法なのか?

演出から何から、すべて計算されている?そういうことなのだろうか。

微睡(まどろみ)静かな早秋の午後にも、微睡ながら、アイスコーヒーを

珈琲にはそれぞれに、好奇心をそそられる名前がつけられていた。

微草 (そよくさ)はじめは微やかな酸味、さめゆくにつれふわふわとひろがる余韻

薄暮 エスプレッソ少々と、たっぷりミルク

星屑抹茶 手摘み茶葉のお抹茶を、しずかば煌めきとともにお点て(おたて)します。

夕焼け色のハーブのソーダ水。

貝殻最中 ピーカンナッツと発酵バターをさくさく最中でつつみました。

ほんのりと甘いピーカンナッツと、ひんやりとした風味のよい発酵バターの取り合わせが絶妙。そしてさくさくの最中の皮。

三河みりんの雑穀米おはぎ 三河みりんと蜂蜜で炊き上げた小豆餡でお作りしております。

みりんと蜂蜜の優しい甘さのおはぎは、雑穀米という味の複雑さ。

夕方喫茶という静寂喫茶は茶室のようだった。

茶は服(ふく)のよきように、
炭(すみ)は湯の沸(わ)くように、
夏は涼(すず)しく冬は暖(あたた)かに、
花は野にあるように、
刻限は早めに、
降(ふ)らずとも雨の用意、
相客(あいきゃく)に心せよ。 -利休七則ー

 

茶道は鎌倉時代に栄西禅師が宋から帰国した際に、茶の種と茶の入れ方を持ち帰り広がったと言われている。そしてかの有名な千利休が精神性を尊ぶ質素な「わび茶」を完成させ、茶を入れて飲むだけでなく、茶室や庭、花、香、書、茶道具、料理や和菓子などに趣向を凝らし、融合した総合芸術となった。

日本の伝統文化とは言っても、作法を学ばないと楽しむことができない奥深い世界。そうは言っても日本人、遺伝子のどこかにお茶を楽しむ心が刻まれている。

お茶を点てる人の所作の美しさに見入り、静けさの中で、茶釜の湯の沸く音、茶筅の音に集中していると、だんだんに感覚が研ぎ澄まされていく。雑多な思考からは解放されていく中で、自然を感じたり、自分もその一部であることを、静かに、ほんのひと時味わう。

雑然とした日常から自分を切り離されたことで、内省的になり、現実の自分を少し俯瞰する。

夕方喫茶には、ふらっと立ち寄る感覚で、茶の湯のようなほんのひと時を過ごせる気がする。それは、耳を澄まし、嗅ぎ、味わい、ただ存在し、静かに時間が流れるままにする。

すべてはその場所に行った時から幕を開けてはじまり、静寂な自然豊かな場所で、じつはそうなるよう計算されたおもてなしの心があるのではないか。そんな珍しい山の中の喫茶、不思議な処だった。

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