青猫といえば、藤が丘にある有名なJAZZ喫茶。一足踏み入れればそこは誰もが大人おしゃれになれる、そんな魔法がかけられている場所だ。
青猫は地下にある。レンガの壁とアイアンの看板がヨーロッパの街角のよう。
下まで降りて振り仰ぐと、蔦が建物にまるで遺跡のように絡んでいた。
音響が妄想を呼ぶ。
鉄の扉は外の人を拒むのか、中の人を守るのか閉じ込めるのか。本当にお店に入ってもよいのだろうか。しかし中からは心地よいジャズが誘うように音楽が漏れてくる。
あーだこーだ躊躇するも、好奇心には勝てない。ようやくドアを開けると、いきなり音の波にのまれた。
とにかく音響がすごい!素人でもわかる。
部屋の空気が水にかわり、音の水槽に閉じ込められたみたいだ。その重く密度をもった透明な揺らぎが見えるように感じられる。音が、音の波が今そこに見えそうなのだ。
おどる影のなかに、猫が隠れる。
そんな妄想が止まらなくなるのは、音楽と浮かびあがる影のせい。空間がひずんで溶けていくような感じがどうしてか心地よい。
夜カフェごはん。
デミグラスソースのハンバーグ。
クリームソースのパスタ。
アイスコーヒー。
コーヒーはブレンド。アイスもホットもおいしい。
器も独特。コーヒーカップは和食器の粉引きだろうか、貫入ですこしひび割れた模様がいい。ソーサーはクリームのようになめらかだ。象形文字のようなスプーンも、今にも動き出しそうで生き物的だった。
青猫
まず、名前がかっこいい。
赤猫でも、緑猫でも、銀猫でもなくて青猫。
青は、自然界では海や空だったりして、色の中では嫌う人の少ない色らしい。ポジティブなイメージでは、爽やかさや清潔感、冷静さなどがあるけど、ネガティブなイメージでは冷たさや、憂鬱、寂しい、悲しいなどの感情にも結び付いている。どちらかというと青猫の青は、後者の匂いがする。そして猫の魔的な可愛さと不思議さが重なって、ますますもってミステリアスな幻想に落ちそうだ。
「月に吠える」で有名な萩原朔太郎には、「青猫」という詩集がある。憂鬱や疲労、倦怠感、人生の不安低さを綴ったものらしい。マスターに聞いてみないとわからないけど、店名はここからとったのだろうか。
青い猫は、もしかしたら椅子の影に潜み、時にはマスターの肩の上に、そして夜の窓のすみに座っているのかもしれない。(ちなにみ青猫とはロシアンブルーのように、青みがかった猫のことを青猫と言うらしい。)
おいしいコーヒーを飲み、音の水の底でくつろぎ、不思議な夢の中に沈んでいく。青猫はそんな時間が過ごせる場所。この機会に詩集青猫も読んでみようか。ちなみに時々読書会なども催されているそう。興味のある方はいかがか。
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